「プロになるまでの全て!」Tさん編26

じゃあ・・進路はどうしようか。
また同じように1年間吹替ワークショップに通って事務所オーディションを受けるべきか、
何がベストかわからなかった。

実はこの頃、昔お世話になっていた小さな事務所から、
お仕事のオーディションの話や、候補出しの話をいただくようになっていた。
所属していないのに、とても有り難い状況だった。
さらに、リピートにつながって仕事も増えている。
メジャーで仕事をしたくて辞めたけど、やりたい仕事ができるのは嬉しかった。
出戻りも一つの手段だった。

代表に相談すると、
出戻るのも有りだし、再度ワークショップに通うのも有り。
はたまた、その両方も。
要は、今認められている処から始めろ!そこから始まる。

そう言われて、出戻る方に心が傾いていくのがわかった。
メジャーで売れたい!これは誰もが思う事だと思う。
同時に、今認められている場所があり、仕事ができる状況がある。
これはとても幸せなことだ。
果たしてどうするのが一番ベストなのか。
自分だけでなく、社長のことも考えてのベストを見つけなくては。
今回、お互いがウィンウィンであるために社長と五分五分で話し合う必要があった。

早速、社長にアポを取り2時間程、話をした。
正直に、かつ、失礼のないように、胸の内を伝えた。
結果、事務所に所属しながら、ワークショップに通ってOK。
独立や事務所を移る際は仕事を持っていくような辞め方をしなければ応援する。
今、来ている仕事に受かってどんどん仕事をして事務所を盛り上げてもらえたら嬉しい。
正直に想いを伝えたからこそ、改めて社長の想いを知ることができた。

代表から、とにかくここは冷静になり自分の想いを整理することが大事。と仰って頂いた。
その時に書き出したノートを開いてみると・・
「上に行くという意識を持ち続けて、外部の音響監督のワークショップに通い、
メジャーの仕事を頂けるよう準備をしながら、ここで積み上げていき、
この事務所を大きくすることに貢献していく道も有り。
その一方で、外部から仕事をいただき、メジャーの仕事もしている自分がベスト。
今頂いているお仕事一つ一つを丁寧にやり遂げて、結果を出して積み上げていく事がゴールに繋がるような気がする。」
こんな言葉が書き記されてあった。(だいぶ端折っているが)

とっても身勝手かもしれないが、これが今に繋がっている。
意志・想いの純度で道は開ける。

結局、私は「小さな事務所に所属」をして「音響監督ワークショップでメジャーのお仕事を頂く」という、
「二刀流」でいくことに決めたのだ。

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「プロになるまでの全て!」Tさん編25

今は信頼回復に努める。
それしかない。

「反省して改善して機を見て立ち上がる。」
これがなかなか難しい。
私の場合、反省ではなく落ち込んでいた。
自分の低い倫理観にため息が止まらない。
人として終わってる。
そうやって重く受け止めて、自分を責めた。
こんな負のオーラを背負っていても迷惑だろうな・・
でも逆に開き直るのも違う・・・俄然そんな余裕はなし。
とにかくどう立ち直って良いのかわからなかった。
オーディションにも落ちた。
希望なんかどこにもない。
でもやっぱり諦めきれない。

代表はこんな時も見放さないでいてくれた。
こんな時だからこそ、なのかもしれない。
「今、この瞬間、現時点にいろ。振り返るほどのことじゃない。」
そんな有難い言葉までかけていただいた。
・・・情けなかった。

やらかしてしまった事は消えないし、
軽々しくピンチはチャンスだなんて言えるわけがない。
大切な人に嘘をつき、オーディションも落ちて、地獄の気分だった。
でも・・・自業自得だろ。
全部私が招いた現実だろ。
どんだけ自分に甘いんだよっ

私は決めた。
落ち込むだけでは、また同じ失敗を繰り返してしまう。
だから、
信頼を回復するために、今、を生きる。
変わりたい。
変わる!

もうすでに私の愚かな部分は露呈されているのだから、
もう「良い子ちゃん」は通用しない。
全部さらけ出して、ここから再スタートだ。
切り替えたとかじゃない。
もう気にしないとかじゃない。
そうじゃなくて、変わると決めたんだ。

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「プロになるまでの全て!」Tさん編24

吹替ワークショップは現場に近い空気を吸うことができて、環境はとても良かった。
あとは半年後に行われる事務所オーディションに受かるために全力を尽くすこと、、
だったはずなのに私は人生でまたミスを犯した。
そんなミスという言葉では収まらない。
人として最低行為だ。
詳しくは書かないが、お金のことだ。
あるプロジェクトを進めていたのだが、私は父と代表を裏切ってしまったのだ。
隠していた事実が明るみにならないように、嘘をついたのだ。
そして、隠していた事実も、嘘をついたことも、バレたのだ。

この世の終わりだった。
嘘をついてしまったこと。
嘘をつかなくてはいけない状況にしてしまったこと。
そして何よりも信頼が失われてしまったこと。
自分のせい。
自分の悪い癖が原因だった。
私はもうAPHに居られないかもしれない。
そう考えるだけで、この先どうしたら良いんだろうか。もう生きていけない。と思った。
大事な人たちを裏切ってしまった時も、自分のことを考えてしまうから呆れる。
けれども、私はそんな程度の人間。
いつでも自分のことばかり。
自分を1番に考えてしまうのだ。

一度失われた信頼を取り戻すことは簡単じゃない。
行動で示すしかない。
結果で示すしかない。

どうしてそうなったのかを時系列で書き出した。
書きながら涙が止まらない。
自分のせいだから擁護はしない。
もう直面することでしか変われない。
だから正直に書いた。
そしてAPH魂をインにする。
反省して改善して機を見て立ち上がるしか道はない。

お前に対する信頼は今はゼロだ。

こんなことを代表に言わせてしまい、
今でも申し訳ない気持ちだ。

信頼が崩れるのは一瞬だ。

もうこんな想いは二度としたくない。

またいつか同じことをやってしまうんだろうか、、
そう思うと怖くてたまらなかった。
自分の悪い癖、甘い考えを変えなければ。
まだここに置いていただけるのならば、私は人として変わらなくちゃ。
正直になろう。
そう決めて、ゼロからやり直している。

正直、この事に触れるのは今でもキツイ。
でも書かないといけない事実だから書く。

自分の根本が腐っている場合、
本気で痛い目を見ないと、なかなか人は変われない。
私は変わるチャンスをいただけた。
人間として大事な部分を見直す機会を頂けた。

おかげさまで、私は今、変わった。
私を支えてくださる周りの方達のおかげで随分と私は変わることができた。
だから今成功している。

でもここに辿り着くまでに、いくつもの試練がまだまだある。

とりあえず、半年後の事務所オーディションは全滅した。そりゃそうでしょ。
人間として中身が腐ってるのだから、神様が許すはずがない。
確かこの時は、書き出しを終えて、APHに復活したばかりだった。
誰からも応援されない。
そんな人が事務所オーディションに受かるはずがない。
まずは崩れた信頼を取り戻すこと。
そこからしか始まらない。

腐っている自分から、一刻も早く変わりたかった。

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「プロになるまでの全て!」Tさん編23

ここから、長い長い自分との闘いが始まる。

事務所に所属できるようにと、Y先輩が面接の機会を与えてくださったり、
ディレクターにボイスサンプルを渡してくださったり等、
沢山の機会を作って下さるにも関わらず、チャンスをものにできない。

さらに、昔お世話になった演出家が、
某声優事務所との面接の機会を作って下さったのだが、
これも対面で丁重に断られた。

帰りに、演出家が私に「もうこの道は諦めた方がいい」と言い放った。
自分が作っている現実とはいえ、ひどすぎる。

あまりにも、私の中でストップが多い。

そのせいで事務所に受かっていないという現状がある。

代表との個人レッスンでは、
「私が創り出しているストップ」を発掘するための方法を伺い、
そして必死に呼吸の稽古を続けた。

自分がストップしている「何か」は自分で見つけるしかない。
その「何か」を突き止める作業が始まった。

一つ一つ、直面すると、本当の私が見えてくることが何度もあった。
自分が自分に作ってしまった壁を自分で外していく。
その作業は苦しく、楽しく、最後は心が軽くなるような感じもした。
けれど、一筋縄ではいかない。
私のストップはあまりにも大きすぎた。

そもそも、「ストップ」している自覚がない所からの始まりだった。

私には「まだいける!次こそ決める!」と、プラス思考で体当たりできる力が有った。
だからこそ厄介で、自分でストップしている感覚がなく、何がいけないのかが見えない。

元々、自分の事しか考えられない私は、浅はかで、全部が表面的だった。
自分の「中心」が一体何なのかわからない。
まだまだ私は、稽古がエクササイズの段階なのだ。

「安心」したい!
「答え」がほしい!

長いことAPHに籍を置いているにも関わらず、まだ養成所生の感覚が抜けていなかった。
だから、あらゆることに浮かれたり、落ち込んだり、一喜一憂していた。
そんな私が、やっとここから「本質」に触れて、抜本的に自分を変化させていくのだが、
一朝一夕にはいかない。

APHの講義で「ど真ん中」「中心」に触れる内容を伺ったので、
一生懸命、ノートに代表の言葉を書き留め、家で新しい紙に書き直す。
そしてその紙をファイルに入れて、何度も読み返す。
言ってることは何となくわかる・・でも、どうやったら中心で居られるのか。
頭で考えるばかり。

とにかく、今できることは個人レッスンで「呼吸」を稽古させてもらうことだった。

まだ全然わかってないけど「呼吸」を稽古すると何も考えられなくなる瞬間が何度もあった。
その時間は、とても静かで自分が集中しているのがわかる。

そんなある日、「ここを掘っていけばいいんだ!」と気づく瞬間があった。
代表とその瞬間を共有させていただき、おかげさまで私は「ボディボイス」を通じて、
芸事に対して真剣に生き始める。

「本質」に触れると気分が上がる。
その感覚はわかる。でも、まだほんの少し触れただけ。
今の私は、自覚していない「固定観念」や「嘘」で凝り固まっている。
「正直」から、かけ離れた場所にいる。

でも、嘘をついている自覚もないし、固定観念?なんのこと?
その無自覚の見えない部分との戦いは、
痛い所を突かれた時に直面できるかで勝負が決まる。
私の中にいる何かを変えないと、事務所は一生決まらない。
いつも、固くて深刻な自分。
何となくわかる。
でもどうしたら良いかわからない。
代表も一緒に頭を抱えている状況が続く・・・
本当に胸が痛い・・なんなら頭も痛い・・

おかげさまで、個人レッスンで稽古を続けることで、
少しずつ「気付き」が増えていく。
考え方も実力も全然まだまだ追いついていない中で、
昨日の自分よりも少し成長することを積み重ねていく。
本質に触れる機会を頂き、1枚1枚自分を剝いでいく。
でも日常を生きていると、また戻ってしまう。
そしてまた、個人レッスンで代表の力をお借りして、取り戻す。
その繰り返し。

どうにかせねば!!

常に、事務所所属のことが頭にある。
そして、いつものように検索し、ある吹替ワークショップを見つけた。
現役の音響監督が講師。
現場と同じ環境でレッスンができる。
認められれば現場への出演チャンスあり。
大手声優事務所オーディションへの参加可能。
月謝は少し高いけど、最後のチャンスのような気がして、週に一度通うことにした。
次こそは!

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「プロになるまでの全て!」Tさん編22

路頭に迷っている私を何とか事務所に繋げようと、
周りの方が助けてくださった。 
もう忘れてしまうくらい沢山の機会を頂いた。
あのエキセントリックな劇団から、
中堅の声優事務所、
そして、Yさんが所属されている大手事務所まで。
とにかくコネで、面接まで辿り着くことができた。
この時にプロフィール作成やお土産選び、便箋の用意、電話対応から
紹介して下さった方へのお礼、報告連絡相談など、
沢山の流れを叱られながら身に付けさせて頂いた。
チャンスはスピードとタイミングだ。

しかし、ことごとく、断られる。
もう断られるのに慣れてしまった。
どうせ、ここも落ちるんじゃないか。
やっぱりな。
また落ちた。
またか・・
もはや落ちることが当たり前になり、
最初はがっかりしていたのが、今や平気になってしまった。

こんな状態で、ある声優事務所を見つけた。
社長がちょんまげをしている変わった場所。

レッスン生として中に入れば、
オーディションのチャンスはあるそうだ。
レッスン料も安かったので、
若い子に混ざって、一緒にレッスンを受けることにした。
実際にゲームのキャスティングをしている男性Dさんがいたので、
とにかく抜きん出て結果を残そうと頑張った。
でも、ゲームって・・・
全然ゲームをやらない私。
ゲームのキャラボイスと言われてもなかなかピンとこない。
何でも良いから、仕事せねば!
自分とはかけ離れたものでも、とにかく何でもいい!
そんな気持ちだった。

もうすでに私の持つエネルギーが落ちていた。
闇を抱えて負のオーラを背負っている感じ。
こんな状態では、良い事務所、良い人とは出会えない。
心の中で、負けない!こっから!って思っていても、目に見えない部分が悲鳴を上げている。
もうダメかもしれないっていうほんの少しの迷いが滲み出て隠せない。
どうしたら良いんだ。
私の本心がわからない。
何で声優になりたいんだっけ?
自分の軸がわからないまま、当てもなく彷徨う。
とにかく事務所、事務所に入らねば。
焦る自分。
でも何とかなるって思ってる私。
この狭間で、闘いが続く。

結局、そのちょんまげ社長の声優事務所には行かなくなり、辞めてしまった。

どこにも全然受からない。
ご縁がない。
全部、自分のせい。

そんな私が諦めないでいられたのは、代表の個人レッスンのおかげだった。

この不遇時代、
私が何をしていたかというと、週に一回、
個人レッスンを受けて、呼吸の稽古をしていた。
そして、その日録音させて頂いたレッスン内容を家に帰って書き出していた。
この時の書き出しの力は大きい。
秘伝が沢山書かれているこのノートは、一生もの。
ダメな私を救ってくれる宝物。
どん底の私は個人レッスンで実力をつけるしかなかった。
毎週本質に触れられるように導いて頂き、自分の可能性がどんどん見える。
まだ私、やれる。
虎視眈々とチャンスを待ち続けていた。

だが、待ちぼうけている。
ずっと続けているコールセンターのバイトのおかげで、
なぜか電話営業がとても上手くなった。
営業成績が300人中いつも10位以内。

自慢だよ。
すごく虚しい自慢。

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「プロになるまでの全て!」Tさん編21

さて、事務所を辞めてしまった。
また路頭に迷うことになった。
せっかく周りのお力を借りて中堅の声優事務所に所属したのに、またダメだった。
私は、型にはまれない性格なのだとつくづく思う。

現場に出させてもらえない状態が耐えられない。
ずっとレッスンばかり。
なぜかお金を払って事務所に所属している。

ごく一部の売れている声優さんは運が良い。
キャラクター、人に出会って、共に名が売れる。
でもきっと多くの声優タマゴはめぐり逢えない。
だから、
事務所で仕事を待つ。
実力をつけながら腐らずに待つ。
いつか自分に合う仕事が来ると信じて待つ。
今できる事を精一杯やる。
営業してもらえるように事務所に顔を出す。
そして、名前を覚えてもらって沢山のオーディションに参加する。
きっとやるべきだし、皆そうしてる。
なのに!私は・・・・

声優として食べていけるのは、
事務所に所属してオーディションに受かる、もしくはご指名を頂き、役と巡り合う、監督と巡り合う、
そして結果を出してリピートに繋げる力・実力を持っている人。
特別じゃない人は、
このラインに乗るのに必死なのだ。
逆に言えば、このラインに乗らなければ、声優にはなれない。
だから皆、まずは事務所に所属する。

私はもちろん選ばれた人ではない。
ただ声優に憧れている人だ。
だからこのラインに乗らなくちゃいけないのに、自ら降りてしまった。
普通ならきっとこの辺りで見切りを付けるんだと思う。

でも私は諦められない。
きっと何とかなる。
結構、前向きだった。
それは現実を受け入れたら苦しいからかもしれない。
自分の置かれている立場を冷静に俯瞰したら、
怖くなってしまうからかもしれない。
そんな言葉で振り返ることもできるけど、ただ単に諦められないだけ。
まだできる。
本心だ。

でも、どうしたら良いかわからない。
私よりも代表の方が頭を抱えている。
その姿を見てようやく、
あ、私って先がもうないんだな。と寂しくなった。

もうなす術がない。
また事務所に入るところからやり直し。
どう見ても痛い人。
どうしたらいいか代表もわからない。

辞める時に言われた社長の言葉が頭の中で響く。
あんたなんかどこへ行っても成功しない。

その通りかもしれない。
誰がどう見てもそうなのだから。

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「プロになるまでの全て!」Tさん編20

事務所をやめてフリーになった。

早速、新しい事務所探しに奮闘する日々だった。

代表に相談をさせて頂きながら、
プロフィールを作成してあらゆる声優事務所に郵送した。

ナレーターに特化した事務所に面接を申し込もうと電話をしたり、
大手声優養成所のオーディションにも参加した。
その時は特待生として通うつもりだった。

この日本で良く知られているほぼ全ての声優事務所に体当たりしたと思う。


レギュラーというお土産もなし。30過ぎてる。世間から見たら痛すぎ。

でももう、他に手段がない。
できることを全部やって、もがいてもがいてもがき続けた。

現実は甘くない。全部落ちた。


気になる所が1か所あった。

映像と声と両方バランスよく仕事ができそうなTプロダクションだった。

代表に相談をした所、
「Y先輩の紹介でTプロダクションに入るのはどうか?」と薦めて頂いた。

Y先輩はプロとして活躍されているAPHの先輩だ。

早速、Y先輩に動いて頂き、
Tプロダクションに所属されているお知り合いAさんに話を通して頂き、
おかげさまで面接日が決まった。

代表と緻密な打ち合わせをさせて頂き、
Y先輩にも沢山協力して頂き、ようやくここまで漕ぎつけることができた。

一人の力ではどうにもならない現実が、今、周りの方のおかげで変わろうとしていた。


当日はすでにお送りしていたプロフィールを見て頂きながら、社長と面接。

どんな仕事をしていきたいのか?と質問を受け、
子供番組に携わりたい想いを直球で伝えた。

まっすぐな想いは社長の心に響き、その場で所属が決まった。

道が開けた。

ようやく、スタート地点に立てた。

そしてここからが試練だった。

 

所属しても、しばらく事務所のレッスンに通う日々だった。

お芝居の題材はシェイクスピア、チェーホフがメインだった。

とにかく仕事をするために向き合った。

3か月経過した。

ようやく1本、映像の仕事が決まった・・が、その他大勢の仕事だった。

次は、NHKの再現が決まった・・。

1年で仕事量は3本だった。

代表からアドバイスを頂き、
自分のボイスサンプルを作成してマネージャーにアプローチをしたものの、
そういうのはやってないと聴いてもらえなかった。

とにかくレッスンで芽を出す以外に仕事は決まらない。

だから、レッスンに通い続けた。

後からわかったのだが、
最低でも3年レッスンに通わないと仕事は頂けない方針だったそうだ。


30過ぎた私にその3年は大きすぎた。

おこがましいのはわかってる。

下積みしないといけないのもわかってる。

でも・・・このまま飼い殺しになるのかもしれない。

そんな不安がよぎった。

1年経過した時、事務所を離れることを決断した。

せっかく、紹介してくださったのに申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、
Y先輩もAさんも有難いことにこちらの状況を理解して下さった。


あの日のことは忘れない。

電話越しに社長から、怒鳴られた。

申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

でも、気持ちは変わらない。

私は、自分勝手だ。


その後、代表と電話をさせて頂き、何とか精神状態を保つことができた。

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「プロになるまでの全て!」Tさん編19

これは、予想していなかった。

うちのような小さい事務所に吹替の仕事が丸ごと任される。

キャスティング権がある。

今思うとこれは、声優業界の仕組みが壊れてきた序章だったのかもしれない。

とにかく、予算がない。

それなりに仕上げてもらえたらそれでok。

そういう会社が業界を牛耳る時代に変わり始める前兆だったのかもしれない。

突然社長から話が有り、私が主演の男の子役に決まってしまった。

吹替は、大きな声優事務所に入らないとできないと思っていた仕事だった。

でも、今、下の層に・・・

大手事務所に入ることができなくて、

でも声優を諦めきれない人たちがワンサカいる地帯に、こうしてチャンスが巡ってきた。

これは思ってもみなかった。

この現象は嬉しい反面、吹替の仕事って、

もっとレベルの高い場所にあるんじゃなかったっけ?と不思議だった。

主演・子役といえば、
私のイメージだとシックスセンスやホームアローンやレオンが思い浮かぶ。

もちろん、今回携わるのはメジャーの作品ではない。

B級ホラーだ。

それでも手の届かないと思っていた「吹替現場」に私がいる。

実力もない私がBQホラーの主演、少年役を演じる。

ずっとやりたかった声の仕事。

素直に嬉しかった。

事前に台本を頂き、当日は小さなスタジオで収録。

いや、本当のことを言えば、あれはスタジオではない。

もちろん機材やブースや控室まできちんと整っていて、収録には申し分のない場所だ。

でも・・言いたくないけど・・ここは自宅兼スタジオのようなところだった。

私が思い描いていた「現場」じゃない。

私が想像していた「現場」から程遠い。

やりたかった仕事をしているはずなのに、なんか納得いかない。

仕事に恵まれない人も大勢いるのに。

これはとても有難いことなのに、今、ここで頂く仕事に不満を抱いている。

私が行きたいのはメジャーだ。

きっと今の事務所にいたら、これからも吹替の仕事に携わることはできるのだろう。

安いギャラだけど経験を積む事はできるのだろう。

でもここで止まるわけにはいかない。

もっと上に行きたい。

同じ「主演」「吹替」っていう言葉なのに、
私が行きたい場所と、今いる場所が全然違う。

私は「メジャー」にこだわりたかった。

この小さな事務所で留まり続けるわけにはいかない・・。

もう一個上のランクの事務所に行かなくては。

辞めようかどうか迷っているとまたチャンスが巡ってきた。

今度は、海外アニメの吹替だった。

ずっとやりたかった子供向け番組。

事務所は前回と違って、外部にも宣伝をしてオーディション形式をとった。

同じような境遇の女子たちが、沈黙の中で、
受かりたいという闘志で空間を埋めて独特な臭いをさせる。

私はこの事務所の人間だから「受かる」と、信じ込んでいた。

バチバチする静寂の戦いに、優越感すら感じた。

結果は、不合格。

なめていた。

所詮、私はこの程度のレベルだった。

実力も。そして、考え方も。

この私を落とすなんて信じられない!

この低レベルの争いに負けたなんて!

冷静じゃない私の本音が止まらない。

事務所、やめちゃえ!

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「プロになるまでの全て!」Tさん編18

落ち着いて冷静に考えたら、断られることなんて当たり前なのに、
どれだけ純粋バカなんだろうか。

目の前のことに一喜一憂して、良いことがありそうだと思ったら、
悪い癖ですぐ浮かれてしまう。

プロデューサーと面接できる!
それだけで私は大空を羽ばたくような気持ちだった。

・・・けれど、本当はどこかで「だめなんじゃないか」ってわかってた。
でも、それを意識したら本当にだめになってしまう。
だから、そこを見ないようにして、「大丈夫」と自分に言い聞かせる。

他のオーディションも同じ。

確率0.0000001%の勝率に賭けて、
受かってるって自分に思い込ませる。
結果、何度落ちてきただろう。

ダメな所に見向きもせず、根拠のない自信だけで、
力尽くで受かろうとして粉砕する。

そこに戦略がなければただの青春だ。

ある程度生きてきた私は、20代の人と同じようには戦えない。
正しい指導者について、実力を付けて認められなくてはいけない。

私の、居場所は一体どこなんだろうか?

私に、居場所なんてあるのだろうか?

いつの間にか、「何とかしなきゃ!」と、事務所を探していた。
もう事務所に入るしか考えられなかったし、他に方法が見つからない。

事務所の条件は声と顔出し、両方できること。

もう最初から大手事務所は除外していた。

他者から言われた「30代は取らない」という言葉。
それが現実だと身に染みたばかり。

敷居の高い事務所には入れないって思い込んで、小さい事務所ばかりに目が行く。

とにかく私でも入れそうな場所・・。
そんな風にしか、もう探せなくなってしまっていた。

突きつけられた「年齢」という厳しい現実をまともに受け入れれば受け入れるほど、
私の純な想いが濁って見えなくなりそうだった。

好きなこと、やりたいこと、なりたい私、それは自分がよく知ってる。

だから年齢なんか関係ない!って自分で思う分には自由だし、
私にはそう思い込む力もある。
でもこのままでは、世の中に受け入れてもらえない。

現実を受け入れて、「まとも」にほかの道に行く選択肢だってある。

でも、、、それができない。
だから、年齢で拒否されない事務所を探す。
そんな何の条件も整っていない私が見つけた場所。

小さな事務所A。

何かしていないと、どうにかなりそうだったから、あまり考えずに決めた。
書類選考のみ。3か月だけレッスンを受けて、その後、問題なければ所属できる。
そんな誰でも入れる事務所Aに、受かった。

私にも居場所があった。よかった・・。

不安から解放され、安堵した。
でもここから、メジャーに辿り着けるのだろうか。

今はそんな事考えたくない。
とにかく居場所さえあれば。。

必死でまた不安を掻き消した。

事務所に入ってからは主に再現ドラマ、通販番組のインサート映像、のオーディションが来た。

部屋を掃除する主婦。
子供番組の中では、母親役。

この辺りの、エキストラに少し毛が生えたような仕事が主だった。
情報番組の再現主役は一通り網羅した。

私の履歴書がだんだん埋まってくる。
でも、居場所はここじゃないって、心の奥で叫んでる。
これらは、仕事として「一本」と数えていいのか、自分でも疑問だった。

先が見えない。
でも、ここにしかいられない現実。

そんな時、吹替のお仕事が決まった。

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「プロになるまでの全て!」Tさん編17

ずっとお世話になっている共演者のMさんが、
番組の裏方として携わっていたので、
無理を言ってお願いしたのだ。

Mさんは嫌がることもせず
「プロフィールを作れば?」と冗談半分で仰ったので、
早速、面接用にAPH仕込みのプロフィールを作り、
写真も撮り直し、歌を入れたボイスサンプルを仕上げた。

その後、Mさんに時間を作ってもらい、
プロフィールを見せると、「いいじゃん」と言って、
その場でプロデューサーに電話をかけたのだ。

急すぎて、緊張したけれど、
代表から電話がつながった時に何を話したらいいのかまで
アドバイスを頂いていたこともあり、
その電話であっさり、面接が決まった。

面接当日は、特別な想いであふれていた。

私の憧れの子供番組のプロデューサーが、
私みたいな素人と会ってくださる。

期待していた。

だって、わざわざ時間を作ってくださる。

本当なら電話で断ることもできたはず。

それなのに、断られなかった!

私は、夢や期待を膨らませていた。

TV局本社に入って、面接が始まると、
軽い世間話から始まり、とうとう本題へ入った。

自分のプロフィールを見せながら、自分の子供番組に対する熱い夢を語った。

想いを全部伝えきった。

本気でこのまま、うまいこと話が進むんじゃないかと思っていた。

そして、返ってきた言葉は、

「いや~こんなふうに、関わろうとしてくる人は沢山いて、全部断ってる。
そして、今回はMさんの紹介だから時間を作ったけど、普通なら断ってる。
まず、30歳を過ぎている人をとらないよね。
あと、この経歴じゃあ、難しいね。
まあ、30歳からが役者としての分岐点になると思うから、こっから頑張って。」

面接は、以上終了だった。

その後の記憶はない。

ただ、かなり落ち込んでいたのは確か。

見たくなかった現実を突きつけられた私は、くやしくてたまらなかった。

代表へ報告すると、

「やっと目を覚ましたか?こんなもんだぞ。お前の好きなものはなんだ?」

プリンです・・・

「今日はそれを食え(笑)」

代表は全部わかっていたのだ。

甘い絵空事だった。
ここを超えればどんどん流れが来ることも代表は知っている。

「今回のことで、ぞっとするくらい落ち込めたらしめたものだ。
そんなもんで済んでいいなあ。
もっと地獄を見なきゃわからないんじゃないの~」

固い私は、その言葉の真意を受け止めきれず、
本当に落ち込んでお葬式ムードだった。

正直、プリンを食べても立ち直れなかった。

いつだって、深刻さと固さは隣り合わせだ。

こんな状態で、感謝は生まれるはずがないなと・・。

今はそう思う。

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