小学3年生の時に、芸術鑑賞会が有った。
劇団の人が、体育館で演劇を見せてくれる。
正直、話の内容は全く覚えてないけれど、
その時のウキウキして体育館に向かった気持ち。
まだ観ていたいと思った気持ち。
体育館が、いつもと違う風景になった驚き。
生徒全員が盛り上がって、笑ってる空間。
それは不思議と覚えている。
今度はそれを私が行う立場になった。
残念ながら、世間の巡演の評価は低い。
理由は色々あると思う。
私はというと、
子供向けの作品が好き。
絵本が好き。
子供が好き。
巡演は私にピッタリだった。
けれども、ずっとここにはいないだろう。
いつかはビッグになってやる!という野望を持っていた。
私が入った団体の名前は「星の雫」
実際、団体の知名度はない。
しかし毎日公演があり、恵まれた劇団だった。
元宝塚の人や元四季の役者を使っていたので、
営業しやすかったのかもしれない。
劇団も学校公演は低レベルだという印象を覆そうと必死だった。
舞台設備も、とことん凝っていて、
流れ星や星空を作ったり、雪を降らせることもある。
さらには12キロもある重たい平台を14枚持っていき仮設舞台を作る。
役者はその仮設舞台で動き回り、
子供達の近くで、芝居ができるように創意工夫していた。
だから、うちの劇団の荷物は2トンロングトラックに満杯。
本番当日の搬入と準備には、3時間以上はかかる。
質の高い作品を子供たちに見せるという方針を定めた「星の雫」は、
先に台本をオリジナルで描き、メンバーは全員オーディションで集めた。
1年契約で実力なければ、クビ。
生演奏の作品になり、楽器ができる役者でないとダメという制限ができるまで、
毎回、オーディションがあった。
一年目の私はダブルキャスト。
まず初めはお試し期間。
年間200公演ある本番に穴を開けられない。
何が有ってもいいように備えあれば憂いなし。
私はこのダブルキャスト設定が苦手だった。
比べられたくない。
役をとられてしまう。
不安しかない・・・。
というのも、専門学校の時の苦い記憶が重なってしまうのだ。
いつも比較されて評価をされる。
私は、できの悪い子。
そういう嫌なものが私を刺激してきた。
稽古している時も、周りの目がすごく気になった。
実際、私は他のメンバーから歌がうまいと思われていた。
しかし歌ってみると、「あっそうでもない・・普通じゃん。」みたいな空気になった。
どんどん落ちていった。
実は上手くなかった・・。
そう思われることが、一番怖かったのだ。
結局、自分が良く思われたかっただけの素人だ。
稽古場は、私が私でいられない。
他の人よりダメ出しが多い。
苦痛で、逃げ出したかった。
それに比べて、相方はめちゃくちゃ良い人で、沢山助けてくれた。
それなのに・・・私は感謝をどれだけできたのだろうか?
とにかく、押しつぶされて自分のことしか考えられなかった。
周りがライバルにしか見えない。
もうやめたい。
始まったばかりなのに、すでに弱音を吐いていた。
せっかく、引き抜かれたのに期待に応えられない。
なぜか期待を自分でプレッシャーにしていた。
弱い自分になって、責任から逃れて、周りから同情してほしかったんだろう。
甘えている。
一方で、芝居のこと以外にも、不安要素を感じていた。
不安①完成した舞台設備とは本番当日初めてご対面する。
不安②設備を見てないのに場面転換で、私が動かす道具があるらしい。
不安③マイクをつけること。
超不安④早替え。
稽古場は、文化センター。
大道具や衣装は、レンタル倉庫を借りて保管。
稽古場に道具や衣装を毎回持ち込めない。
リアリティに欠けたまま稽古をすることは、新人の私にとっては酷だった。
この時の自分に、「もっと楽しめばいいのに・・」
なんて言ったところで、響かないんだろうな(笑)
私の初日は、確か・・岐阜県だったかな。
スーツケースに荷物を詰め込んで、東京から岐阜まで車で向かう。
稽古以外は楽しかった。
めったに乗らない車で、高速道路を走り、お昼ご飯はサービスエリアで食べる。
用意されたホテルに泊まる。
シングル部屋で明日の準備をする(昔は大部屋が当たり前だったみたい)
これからはずっとホテル生活だ。
明日は本番初日。
台本ばかり読んでいた。
正直、気が気でない。
だって本番同様の通し稽古は、一回もしてない。
これを面白がれるかどうかがプロと素人の境目なんだけどな・・
「・・・・早替えがちゃんとできますように・・・・
・・・・特に、魔女のカツラが落ちませんように・・・・」
・・・まあ、面白がれる余裕は・・ないか・・
「プロになるまでの全て!」Tさん編 記事一覧
- 全力新連載「プロになるまでの全て!」Tさん編01女性声優 T さんをご紹介します。 女性として最初に登場してくれる Continue Reading →
- 「プロになるまでの全て!」Tさん編02親も担任も応援してくれない。その反骨精神が原動力となって劇団ひまわ Continue Reading →
- 「プロになるまでの全て!」Tさん編03専門学校卒業後、夢追いフリーターになった。毎日が自由だからこそ、夢 Continue Reading →
- 「プロになるまでの全て!」Tさん編04ケッケコーポレーションの預かりになった。週に一度だけ音響監督のレッ Continue Reading →
- 「プロになるまでの全て!」Tさん編05居場所を失った私はバイトとレッスンに明け暮れた。ダンスの先生やメン Continue Reading →
- 「プロになるまでの全て!」Tさん編06小学3年生の時に、芸術鑑賞会が有った。劇団の人が、体育館で演劇を見 Continue Reading →
- 「プロになるまでの全て!」Tさん編07早朝。 小学校に到着した瞬間、懐かしい気持ちと不安が入り混じる。目 Continue Reading →
- 「プロになるまでの全て!」Tさん編08ありがたいことに、クビにはならず(笑)そのまま継続することができた Continue Reading →
- 「プロになるまでの全て!」Tさん編092年目から、新作の主役を務めることになった。私に実力があったからじ Continue Reading →
- 「プロになるまでの全て!」Tさん編10役者を目指してる人に会うと、よく警戒していた。 常に比較され続けて Continue Reading →
- 「プロになるまでの全て!」Tさん編11APHに入った最初の頃、私は旅公演をメインに活動していた。そのため Continue Reading →
- 「プロになるまでの全て!」Tさん編12褒められて嬉しかったし、乗り越えた感もあった。芝居でこんなにも、充 Continue Reading →
- 「プロになるまでの全て!」Tさん編13夏。最悪な事態が起こってしまった。 父から「話がある。」と言われて Continue Reading →
- 「プロになるまでの全て!」Tさん編14私は母の死後、四国へ行った。 切り替えたいのか、忘れたいのか、自分 Continue Reading →
- 「プロになるまでの全て!」Tさん編15わかりやすくて、大袈裟なお芝居が、得意だった。というか、それしかわ Continue Reading →
- 「プロになるまでの全て!」Tさん編16代表に、声優になりたいと伝えてから、私のターゲットが明確になった。 Continue Reading →
- 「プロになるまでの全て!」Tさん編17ずっとお世話になっている共演者のMさんが、番組の裏方として携わって Continue Reading →
- 「プロになるまでの全て!」Tさん編18落ち着いて冷静に考えたら、断られることなんて当たり前なのに、どれだ Continue Reading →
- 「プロになるまでの全て!」Tさん編19これは、予想していなかった。 うちのような小さい事務所に吹替の仕事 Continue Reading →
- 「プロになるまでの全て!」Tさん編20事務所をやめてフリーになった。 早速、新しい事務所探しに奮闘する日 Continue Reading →
- 「プロになるまでの全て!」Tさん編21さて、事務所を辞めてしまった。また路頭に迷うことになった。せっかく Continue Reading →
- 「プロになるまでの全て!」Tさん編22路頭に迷っている私を何とか事務所に繋げようと、周りの方が助けてくだ Continue Reading →
- 「プロになるまでの全て!」Tさん編23ここから、長い長い自分との闘いが始まる。 事務所に所属できるように Continue Reading →
- 「プロになるまでの全て!」Tさん編24吹替ワークショップは現場に近い空気を吸うことができて、環境はとても Continue Reading →