「プロになるまでの全て!」Tさん編16

代表に、声優になりたいと伝えてから、私のターゲットが明確になった。

「事務所に入ること」
というわけでまずは、プロフィールの作成をすすめられて、
写真、ボイスサンプル、履歴書の準備にとりかかった。

完成した履歴書をみて、愕然とした。

私の履歴書は、舞台一色。
声の仕事は、一つもなし。
しかも7年間やってきた舞台は、巡業公演。
一般的に知られていない劇団なので、業界からは「レベルが低い」という目で見られる。

立場はかなり、厳しい。

とにかく、今は、実力をつけるしかない。
まずは「舞台」のお芝居から「映像」のお芝居に質的変化を起こす事が必要だった。

APHでは、本質を学ぶ。何が本当のことか、肌で感じる。

メンバーそれぞれ課題があるが、私の場合、
映像のお芝居をやろうとすると、いつも「型」が邪魔をした。

私には、固さがいつも付きまとう。
それは、我欲が強いせいでもある。

代表からは「柔軟な人であれ」と何度も何度も言われ続ける。

とにかく、今は「世話落ち」を身に着けながら、もっと面白がることが私の課題だった。

そうは言っても、なかなか昔の型を捨てることができない。

「型」というのは、自分の古い考え、固定観念と繋がっている。
私が柔軟さを身に着けるには、「思考」を変える必要がある。
これが、なかなか一筋縄ではいかない。

そんなある日、APHのセッションで取り組んだお芝居の中で
「型」が見えない瞬間があり、代表から褒められた。

大ヒット!が出た。

そして、次の週、同じように褒められようとして、
同じことをやったら、叱られた。

もうできてるところをやっても意味がないし、稽古にならんだろ!
もっと繊細さを勉強しなさい!と言われる始末。

私は、固さに加えて、短絡的でもある。

すぐ調子に乗るし、いろんなことに一喜一憂してしまう。

まったく、芸事の「げ」の字にも入れないほど、
何にもわかってない人間そのもの。

ただ毎回のセッションで、
自分が真剣に変わろうとしているのは本当だった。

というのも・・・・

「どうしても、上に行きたい。
そして、いつか歌のお姉さんになるんだ!
だから、大手の事務所に行って、レギュラー番組を持って、仕事をするんだ!」

と、本気で考えていたからだ。

これが20代ならまだ許せる・・。

私の場合、ちょっと・・いや・・・かなり痛い。
我欲が強いためか、気持ちが先行して、現実が見えていない。

さらに言えば、この時、「巡演」の時にお世話になった演出家から、
同じ作品で秋に一度だけ、長野の舞台に出てくれないか?と依頼がきた。

私はもう戻る気持ちがなかったので、断ろうとしていたが、代表から
「主役の席なんて普通は簡単に手に入るものではない!
今あるものをまず大切にしなさい」
とお叱りを受けたこともあった。

「今あるもの」をバッと投げ出してしまうのは、まずいやり方だと。

ただ、この時の私はその意味もよくわかっていない。
呆れるくらい、現実ではなく、夢を見ていたのだ。

そんな私に、転機が訪れた。

某子供番組プロデューサーと面接することになったのだ。

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