「プロになるまでの全て!」Tさん編21

さて、事務所を辞めてしまった。
また路頭に迷うことになった。
せっかく周りのお力を借りて中堅の声優事務所に所属したのに、またダメだった。
私は、型にはまれない性格なのだとつくづく思う。

現場に出させてもらえない状態が耐えられない。
ずっとレッスンばかり。
なぜかお金を払って事務所に所属している。

ごく一部の売れている声優さんは運が良い。
キャラクター、人に出会って、共に名が売れる。
でもきっと多くの声優タマゴはめぐり逢えない。
だから、
事務所で仕事を待つ。
実力をつけながら腐らずに待つ。
いつか自分に合う仕事が来ると信じて待つ。
今できる事を精一杯やる。
営業してもらえるように事務所に顔を出す。
そして、名前を覚えてもらって沢山のオーディションに参加する。
きっとやるべきだし、皆そうしてる。
なのに!私は・・・・

声優として食べていけるのは、
事務所に所属してオーディションに受かる、もしくはご指名を頂き、役と巡り合う、監督と巡り合う、
そして結果を出してリピートに繋げる力・実力を持っている人。
特別じゃない人は、
このラインに乗るのに必死なのだ。
逆に言えば、このラインに乗らなければ、声優にはなれない。
だから皆、まずは事務所に所属する。

私はもちろん選ばれた人ではない。
ただ声優に憧れている人だ。
だからこのラインに乗らなくちゃいけないのに、自ら降りてしまった。
普通ならきっとこの辺りで見切りを付けるんだと思う。

でも私は諦められない。
きっと何とかなる。
結構、前向きだった。
それは現実を受け入れたら苦しいからかもしれない。
自分の置かれている立場を冷静に俯瞰したら、
怖くなってしまうからかもしれない。
そんな言葉で振り返ることもできるけど、ただ単に諦められないだけ。
まだできる。
本心だ。

でも、どうしたら良いかわからない。
私よりも代表の方が頭を抱えている。
その姿を見てようやく、
あ、私って先がもうないんだな。と寂しくなった。

もうなす術がない。
また事務所に入るところからやり直し。
どう見ても痛い人。
どうしたらいいか代表もわからない。

辞める時に言われた社長の言葉が頭の中で響く。
あんたなんかどこへ行っても成功しない。

その通りかもしれない。
誰がどう見てもそうなのだから。

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