2年目から、新作の主役を務めることになった。
私に実力があったからじゃない。
たまたま、他の人が辞めてしまったからだ。
私もせっかくの居場所を手放したくないし、主役をやりたかったから引き受けた。
私は、ウサギの役だった。
春、オーディションに合格したYさんがメンバーに加わった。
もともと、某ミュージカル劇団で鍛えられていて、皆から頼られる存在となる。
幸運なことに、新作はシングルキャストだから、Yさんと争う必要がない。
だから、出会った時からライバルというよりも、仲間意識の方が強かった。
Yさんと私は、出会った日からこれまで色々なものを共有してきた。
今も、私の大切な親友、高め合える良きライバル、同志
そして恩人である。
問題は、稽古だった。
稽古中の私は、言われた通りに動く人形でしかない。
マジで芝居が嫌いになりそうだった。
私は芝居が下手くそすぎた。
指示された動きを段取りでやる所から気持ちで動くまでに時間がかかった。
私は不器用で、すぐできない。
演出家が私の代わりに動いて、手本を見せる。
すごく自然に見える。
私がやると、ぎこちない。
身体と台詞がバラバラなのだ。
演出家の求める正解を出せなくて、行き詰まった。
稽古は、毎回痛めつけられてるような感覚で楽しめなかった。
私の動けなさに相手役の人も、イライラしているのがわかる。
こう動けば良いのだと正解みたいな動きをやってみせてくる。
それが余計につらい。
自分ができないことが、より引き立った。
しかし、現場に出てしまえば、演出家はいない。
何も言われないから、自由!のはずが、
相手役からのダメ出し。
ダメ出しを受けるたびにどんどん落ち込む。
こう動いた方がいいよって言われてるだけなのに、
いちいち喰らってしまう私に問題があった。
のびのびできない。
いつも怯えながら本番に取り組んでいた。
今日は何を言われるんだろうか。
ちゃんとやらなくちゃいけない。
そんな事を考えながら、
いつのまにか、失敗しないように取り組むようになった。
何のためにやってるのか、もうよくわからなかった。
芝居は喜怒哀楽のハッキリしたわかりやすいお芝居しか求められない。
お芝居が固まって居着いた。
でもその事にすら、気付けない私。
ウサギが上手くできるようになること=芝居が上手い。
怖い方程式がいつの間にか完成した。
ウサギ役が全てだった。
そんな時、Yさんから
「ここのワークショップ他と違うから来てみない?」
確か、そんな文句だった気がする。
毎日一緒にいたから、どこで、どんなシチュエーションで誘われたのか思い出せない。
気になって、Yさんに聞いてみたけど、覚えてないとのこと(笑)
しかしながら、Yさんが私をここに連れてきた時の気持ちをこう語ってくれました。
「深い理由はないんだけど、本当に良いものって誰かに勧めたいじゃん!
でもね、誰でもいいわけじゃないの。
Tは、芝居に真摯に向き合ってるように見えたから、勧めたくなったの。
シンプルでしょ。」
ありがとうございます。
本当に感謝。感謝。
本来ならこの場所は、プロなら教えたくないはずだ。
それをシンプルにいいと思って教えてくださるなんて・・・!
易々と教えたくないのが人間ではないのか?
なんかYさんが仏に見えてきた。ずっと拝み続けたい(笑)
というのは、冗談だけれど、本当に感謝しています。
心からありがとう。
と言いつつも、
確か、始めはピンとこなくて、断った覚えがある。(おいおい)
いわゆる「ワークショップ」に高い月謝を払いたくないし、
ワークショップという場所が本当に自分に必要なのかが、わからなかった。
しかし、稽古が相変わらず辛い。いよいよ苦しくなってきた。
もう、一人ではどうにもならない。
無理だ。限界だ。
・・・・そういえば、Yさんの言ってたワークショップの話があったな・・・・。
この時、私の直感が働いた。
行ってみようかな
なんとなく思ったのだ。
Yさんから改めて話を聞いた。
数日後、
「今、一般募集はしていないが、紹介ならば受け入れます」
というお返事を頂けた。
なんでか、「限定」や「特別」に弱い(笑)
まだ本当に行きたいかはわからないが、
Yさんの紹介だし、この段階で断ったら失礼だ。
だから見学しとこうぐらいの気持ちだったと思う。
何かを期待していたわけでは全くなかった。
ただ、
周りの抑圧から自由になりたい。
少し、外の空気を吸いたい。
そして何より見返したい気持ちが強かった。
演技が上手くなって、
「できない人」という枠から出たかった。
言いたいことが言えない腹黒良子は、
腹に本音をためて、穏便に波風立てないように振舞いながら、人を憎む性質があった。
私に対して、言いたい放題言ってくる演出家や共演者が嫌いだった。
私は濁っていた。
人に対して謙虚なふりをし、腹の底で相手を恨む。
腹黒良子はそんな哀れで醜い人間へと成長した。
ようやく私は
APHの扉を開いたのだ。
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