APHに入った最初の頃、私は旅公演をメインに活動していた。
そのため、APHには来たり来なかったりするビジターだった。
入ったばかりの私は、みっちり稽古して積み重ねていくというよりも、
レッスンの感覚だった。
APHがどういう所なのかを、まだ理解していない。
家では、練習をしていた。
台詞覚えた!
歌詞覚えた!
やる事と言えば、このくらい。
練習は、すぐ飽きてしまって続かない。
だから、上手くなりたいって思うのに、何もしない。
でもここに通っていれば、何とかなる。
そんな風に甘えていた。
昔からレッスンをしていれば、なんか安心感があった。
これだけ練習したから、大丈夫だ・・みたいな。
当時は、別で歌のレッスンにも通っていた。
これで、十分やった気分になれた。
浅はかだった。
人には段階があって、徐々に気付きを得ながら物事を理解していくのだと、
今は身にしみて感じている。
だからこそ正直、この頃の私に直面するのは結構きつい(笑)
人間としてのレベル
観察する力
判断する力
常識
こうしたものが、ほぼゼロ。
それに加えて、頑固。
人の演技を観ても、見方がわからない。
良いものと悪いものの差がわからない。
当然だが、APHで教わるボディボイスも芝居も、一朝一夕ではできない。
積み重ねて、練って練って、触って、気づいて、また練ってを繰り返していく。
それが最初、物足りなかった。
私にレッスンの感覚が染みついていたのが原因だ。
何でも、すぐできなくちゃいけない環境にいた。
ダンスの振り付けも。歌も。
その場ですぐできないと、ミュージカルの世界は置いて行かれる。
ミュージカルで求められているのは、
音程を外さない歌や体の柔らかさ。まさに筋肉の世界。
これが大前提で、さらにここから表現力をつけろと言われてきた。
世の中の合意が、そうだった。
別に悪いわけではないけれど、当時はそこだけしか見えていなかった。
私の場合、段階を踏んで、その奥に気付けるように導いてもらった。
しかし、「それしかない!」という固執した考え方を修正するのに
結構、時間がかかった。
そのくらい、固定観念が強かった。
何度も言うが、当時の自分の行動や考えは超レベルが低い。
正直に言いますYO
ぼーっと生きてたYO
自称、役者で、やることやってないYO
結論、何もしていなかったYO!!!
舞台の本番を、こなして、
レッスンで安心している日々。
芝居の内容は、毎回繰り返してて新鮮さゼロ。
よく、これでプロって言えたなと思う。
ただ、こんな私でもAPHに行く時は緊張していた。
できれば芝居で恥をかきたくない。
否定されたくない。
本当言うと、普段何もしてないことが、ばれる事が一番怖かった。
でも、家でどう芝居の稽古をしたらいいのかもわからないし、
多分する気もなかったんだろうな。
この日、APHのセッションで、
公演中のシーンの一部を抜粋して演じることになっていた。
舞台で、ウサギをずっと演じている。
軽く1000回は超えていた。
最初、私としては、いつも通りにやれば問題ないと思って、
先週は、そのまま演じて見せた。
舐め腐っていた。
誰が見ても、完全に居着いていた。
私の身体には「ウサギ」がこびりついていた。
台詞の言い方が毎回同じ。変わらない。
もう、何千回と言ってきた台詞が身に染み付いて離れない。
代表から
「ウサギ役でお金をもらっている。
それをここでやっても全く意味がない。
お茶を濁しに来るくらいなら来るな。
ウサギのままでいいなら、APHに来るな。」と言われた。
代表は、私が安定したウサギを見せればいいと舐め腐っていたことも見抜いていた。
各自練習タイム。
台詞を練習するが、いつもの言い方が出てくる。
変わらない。
変化したいけど、どうしたらいいのかわからない。
何をやればいいかわからない。
窮地に立たされた。
芝居ってなんだ?
わかんない・・できない・・いつものウサギしかできない!
一人で、混乱していた。
でも、ここで変化をしないといけない気がした。
変わらなければ、ここにいる意味がない。
結局、何もできないまま本番を迎えた。
私が皆の前に出ると、代表から
「先週は全然動けてなかったから、まず動け!」
「さあ、Tにウサギをやるなと言いました。後で皆に判定してもらいます。」
と言われて、さらに追い込まれた。
どうしていいかわかんない。
なんか怒りが湧いてきた。
私はウサギだけじゃない!
そうだ!
もう、不良になろう。
タバコとか吸った事ないけど、やるしかない。
台詞の言い回しも変えていいのかわからない。
でも・・聞けない・・
いーや、変えたる!不良だ!
もうどうにでもなれ!
よーい、アクション!
その瞬間、ずっと演じてきた可愛らしいウサギが、一変して、
タバコを持ち、○○○座りで、
「なんであたしの耳は片方曲がってんだよ(怒)」
ってな感じで、ウサギのシーンを不良で演じた。
カットがかかった。
何となく空気が変わっていた。
「はい、変わったと思った人?」と代表が言うと、
全員が手を挙げた。
「何をやろうとしたんですか?」と代表に聞かれ、
「不良です。」と答えた。
何を言われるのかドキドキしていると、代表から
「素晴らしい!はっきり言います。
あなたには、才能があります。
こんなに早く変われるとは思ってなかった!
もっと、頭が固いのかと思ってた。
よくやった!もう今日は帰っていいぞ(笑)」
思い切り、代表から褒められた。
全員がウサギに見えなかったと言ってくれた。
それを受けて、涙が出てきた。
殻を破って、それが周りにも届いて、快感だった。
変化を見せるってこういうことなのか・・
身体で覚えた瞬間だった。
最後、代表に呼ばれて、握手をした。
「今日は、アニバーサリーだ!今日のことを書き留めておけよ」と言われ、
この時の事は、自分ノートにしっかり記載されてある。
「真逆ができた。
これからは、その間を埋めていこうな!
やりたい役を書き出しとけ。よくやった!」
代表からの言葉だ。
ウサギが不良になった。
殻を破った。
今日は、ここに来た意味がある日になった。
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