専門学校卒業後、夢追いフリーターになった。
毎日が自由だからこそ、夢に向かって何かしら行動していないと落ち着かない。
資料を取り寄せたり体験入学に参加したり、常に居場所を求めていた。
向かう先は声優である事はわかっていたけれど、
どこに通ったらいいのかわからない。
この時代の大手声優事務所である、賢プロ、青二、81プロデュース・・・等々も考えた。
どうせならば大手に行きたい。
しかし専門学校で痛い目を見た自分は
大手養成所からストレートに所属できるとは思えなかった。
仮に三年通ったとして所属になら なかったらどうなるのか、
また別の養成所に通うのか・・それは避けたい。
逆に所属した場合、声優の仕事だけに縛られたくない。
あくまで希望しているのは「声優アイドル」という立ち位置。
裏方ではなく、表に出たい・・・そんなことを考えていた。
締め切りが迫り、
最終的に費用第一優先で決めたのが「松濤アクターズギムナジウム」だ。
カリキュラムに、歌とダンスがあるので、
「これまでの経験を活かして、頭角を現せるのではないか」
という打算的な考えもあった。
また資料に「声優の根本は役者だ」みたいな事が書いてあったので、
事務所に入った後も多方面で仕事ができるかも・・
という期待もあり、オーディションを受けた。
審査の結果、基礎科、本科と2年通うべき所が1年免除。
といってもカモには変わりないけど(笑)
まあ・・仕方がない。
その時は1年後、所属してやる!くらいの気持ちで入所したのだ。
授業はすでに習ったことのある歌、ダンス、演技だった。
読みが当たって、経験者の私は頭角を表した。
専門学校の時は、全く先生から相手にされなかったのに、ここでは目立つ存在になった。
それを良いことに、敵対心を剥き出しにして授業に参加していたのを覚えている。
私なりに、目をかけてもらおうと必死だった。
ある日のこと。
選択レッスンでマイク前授業が有った。
初めてのマイク、スタジオに興奮する。
しかし、いざやってみると・・・で きない!
マイク前未経験の私は、できなかった。
なんだこれは?!
マイク前の制限があり過ぎて、どうしていいかわからない。
ダンスや、歌や、舞台はある程度、自由が利く。
しかし、声優は違う。
映像に合わせるという不便さにぶち当たった。
声だけで、どうやるの?
身体は、どうするの?
私にはもう違和感しかない。
マイク前の芝居の楽しさが全然わからない!
そのレッスンで自分の将来に不安を感じ始めた。
本当に声優になりたいの?
怖いけど、正直に自分に聞くしかなかった。
実力のある声優アイドルになると決めたはずなのに、
肝心な声優の仕事ができないのでは話にならない。
アフレコができるのが前提で、そこから派生して色んな仕事をやるはずだったのに。
結局私は、声優ブームの影響をもろに浴びた1人にすぎなかった。
でもそれは認めたくない事実だった。
自分はそうじゃないって思いたい。意地を張っていた。
単にブームに流されて人生を賭けてしまった自分を認めるのが怖かった。
超理想を掲げて、行動してきたのに・・今それが崩れようとしている。
私って・・本当は何がやりたいんだろう。
「NHKの歌のお姉さんになりたい」
「子供が好きだからいつか子供番組を持ちたい」
自分の原点が見えてきた。
でもどうしたらいいのかわからない。
結局、養成所には、安心を得るために通っていたのかもしれない。
夢を叶えるために、何かしていると思えるから。
でも今考えてみても、養成所で学んだ事は何もない。
やった気にさせるアフレコごっこは、全然楽しめなかった。
むしろ、私は声優を誤解してしまった。
それでも、「『やっぱり声優って良い!』って思えるかもしれない・・」
と期待して通っていた。
けれども相変わらずアフレコの授業は、つまらなかった。
ダンスと歌のレッスンの方が好き。
身体を動かす事が、私には合っていた。
声優だって動くのに!!
今なら理解できる。
しかし、養成所では教えてもらえなかった。
結局、声優がマイク前で何をしているのかを理解しないまま養成期間を過ごした。
3月にある、養成所お決まりの卒業公演でオーディションに合格し、主役に抜擢された。
六行会ホールで2日間4ステージ。
作品は「11匹のねこ」というミュージカル!
養成所で1番注目されている女の子と、そうでもない私がダブルキャストで主役をつとめる。
専門学校では最下位だった私が、ここではトップだった。
舞い上がった。
稽古期間は1か月。
演出家は現役声優で、いつも機嫌が悪そう・・・(に見えるタイプ。)
莫大な量の台詞、歌、振付。
今考えてみても結構ハード。
結局、相方が途中で降板し、私が2日間フルで出演する事になった。
稽古は体力勝負で、毎回息切れしていたけど楽しかった
本番当日、
舞台上の私はとてもイキイキしていた。
何とも言えない達成感。鳴り止まない拍手。
全てが、夢のようだった。
舞台が好きになった。
この時、母が仲の良い友人を連れて観に来てくれた。
決して口には出さなかったけど、私を応援していたんだと今ならわかる。
当時の私は子供みたいに意地を張って、面と向かって感想を聞けなかったけど、
母の笑ってる姿を見て少しだけホッとした私がいた。
養成所はこれで、卒業。
マイク前の技術は何一つ身に付けていないけれど、
歌とダンスを評価され、運良く事務所の「預かり」となった。
アテレコができない私はこの後が試練の連続だった・・。
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