「プロになるまでの全て!」Yさん編08

事務所をクビになり劇団も辞め、
ただ生きるためにバイトする生活にも嫌気がさして廃人になっていたのですが
さすがに長くは続きません。

バイトをしてないのでお金がありません。
自分は借金をして食いつなぎました。
そしてSの通っていた専門学校の講師の方がやっていたワークショップに行き始めました。

月2000円というほぼ場所代だけだった事と、
何かをしていないと東京にいる理由がなくなってしまうのが怖かったのです。

そこで何とか芝居に関わり、
あてもなく何かを何とかしようとしました。
本当に何も声優としての仕事につながる道が見えなかったのです。

アマチュアに毛が生えたような所でしたが、
ワークショップ自体は楽しく、やっている気にはなれました。
そこで少し気力が戻り始めます。
しかし先は真っ暗なままです。
ここがプロの仕事につながらない事は当時の自分でもわかっていました。
でもどうすればいいかもわからない。
本当に迷走した時期でした。

そんな時、クビになったはずの事務所から電話が来ました。

ビクビクしながら話を聴くと
何と仕事の連絡でした。

どういう事だろう?
自分はクビになっているのに?
混乱しました。

後でわかったのですが、
自社にイメージに合う役者がいない、ギャラが安いなどの理由で
所属していない人に回す事もあるそうです。
それでもかなり特殊な状況です。

自分は「もしかしたら戻れるかも」と期待しました。
浅はかでしたね。
しかしこれも気力を取り戻す事につながりました。
ようやくバイトをまともにするようになりました。

そして思い付いた事をあれこれやっていました。
Sに紹介してもらった案内係のバイトとコンビニを掛け持ちしたり、
ワークショップで知り合った人が
アニメのディレクターの書く脚本で舞台をやるというので参加したり、
知り合いが自主制作でドラマCDを作るというので参加したり。

全部上手くいきませんでした。

バイトは無理な組み方をしたせいで、次のバイトに遅刻したり、
出勤日を間違えたりしてクビになりました。
アニメディレクターの舞台は、脚本が全く上がって来ず
主催の人がノイローゼになり企画ごとなくなりました。
自主制作ドラマCDも脚本でもめてこれも企画ごとなくなりました。

精神的にも不安定だったのか、
家で気晴らしにゲームをしてもイライラしてゲーム機に八つ当たりしてました。
とあるゲーム機を3台ほど壊しました。
コントローラーを2個。
別のゲーム機を1台。
散財しました。

アパートに引きこもっていた時期よりはマシでしたが、
やる事全て上手くいかず全く前に進めませんでした。

クビになった事務所からもらった仕事に行った時、
収録の合間にアパートの管理会社から家賃の催促の電話が来たりもしました。
その日の収録は内心地獄でした。

家賃を払わないと保証人に連絡が行きます。
親です。
バイトもしてないので借金が膨らみ家賃を半年ほど滞納したところでバレました。
電話口でそれはもうすごい剣幕で怒られました。

当然、「実家に帰ってこい」と言われました。

でも、それでも帰りたくなかった。
諦める事ができませんでした。

当時の自分は、この気持ちが
「本当にやりたいから」なのか
「ただ意地をはっている」のか
「今さら諦めると言えない」からなのか
わかりませんでした。

でもどうしても諦めて帰るという選択ができなかった。
親から、滞納分の家賃に加えて仕送りまでもらい
まともな人間なら諦めて実家に帰っていたのではないかと思います。

本当になぜ諦められないのかわからなかった。

とにかく知り合った人にいろいろ聞いてワークショップ巡りをしました。
5、6個くらいは行ったでしょうか。

そして元ディレクターのやっているというワークショップを見つけ通いました。
そこには少しだけ仕事をしている人もいて何かが見つかりそうな気がしたのです。

しかしその元ディレクターの方は大変高齢で、
半年ほどで入院されワークショップはなくなりました。
元ディレクターのお見舞いに行った帰りに、
あてがなくなり何も考えられなくなって動揺したのを覚えています。

そんな時にTさんからメールが来ました。
Tさんはクビになった事務所の養成所で知り合い、
Tさんも所属になり仲良くなりました。
しかし自分がクビになってから連絡を取らなくなりずいぶん経っていました。

内容は、
「あのゲームのキャラクター。声優が変わったらしいよ。」
でした。

なんでこんな事を連絡してきたのかとても不思議に思いました。
とりあえず
「本当に?残念だね。」
と返しました。

そこからまた数ヶ月連絡はありませんでした。
Tさんからのメールの事など忘れて
自分は何とかバイトをしながらワークショップを探していました。

するとまたTさんからメールが来ました。
「今どうしてる?久しぶりに合わないか?」
池袋で会う事になりました。
やる事全てが上手くいかず気晴らしがしたかったのです。

久しぶりに会ったTさんは以前と同じように気楽に話してくれたので、
自分もクビになってからの事を全て話しました。
何をやっても上手くいかず、どこか通える所を探していると。
するとTさんは
「自分が今通っているワークショップがある。それに来ないか?」
と言ったのです。

養成所時代のTさんは正直あまり印象に残らない人でした。
バイトが忙しくすぐに帰っていましたし、
Tさんの芝居は、当時の自分にとって特に記憶に残らないくらいでした。

久しぶりに会ったTさんは「声」が違った。
一声で以前とは違うとわかるくらいに変化していました。
その変化に驚きました。
別人のようでした。

「所属になれたのはこのワークショップのおかげだ」
とまで、そのTさんが言うのです。
ワークショップ巡りをしていた自分は興味を持ちました。
「そこは本質を教えてくれるところだ」
Tさんはザッと説明をした後、
「ゲームセンターで遊んで行こう」
と言うので一緒にメダルゲームをしました。

外宇宙生命体を題材にしたもので、
Tさんから聞いた攻略法を使い初心者の自分はジャックポットを当てました。
1500枚くらいののメダルを獲得して、
久しぶりに楽しく遊ぶ事ができました。

そのTさんから紹介されたのが

A・P・H、アクターズプレイハウス

でした。

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