「プロになるまでの全て!」Yさん編06

多少実力が上がってきても結果を出せない。

怖くなっていきました。

現場に行く事が。
事務所に行く事が。
とにかく仕事に関わる人達に会うのが怖くなりました。

こんな自分を見られるのが嫌でした。

事務所に行こうとすると不安になりました。
事務所ビルのエレベーター前で足が止まりました。
事務所内に入っても極度の恐怖と緊張で
スタッフに話しかける事もできませんでした。
ただいただけで一時間もすると耐えきれず帰り、
その時間もどんどん短くなり
やがて事務所に顔を出す回数も減っていきました。

自分は劇団に逃げ道を求めました。
ここなら事務所の人はいない。
お芝居は楽しい。
実力をつける事はできる。

だから自分がここにいる事は間違っていない。
そう考えました。

これ自体は間違ってはいません。
ただし、現場から、事務所から逃げていなければ。

これだけではダメなのです。
失敗した現実から逃げているのですから。

物事は原因に直面しないと本当には解決できないのです。
仕事をナメて失敗した、
自分はプロとして通用しなかったという事実をちゃんと認めなければ。

父親からはずっと「帰ってこい」と言われ続けました。
「声優なんかで食べて行くのは不可能だ!!︎」と。
言葉がきつくなる事も今なら理解できます。

息子である自分の事が心配だったのです。

しかしこの時の自分には本当に辛い言葉でした。
両親が東京に自分の様子を身に来た時に舞台に招待したり、
何とか認めてもらおうとしました。

でも負のスパイラルにはまった自分には、
父親を納得させる事はできませんでした。

原因から逃げつつも何とか実力を付け現場に出ようと自分は足掻きました。

そしてようやく巡ってきた現場でまたくだらない失敗をするのです。

心が折れました。

失敗を繰り返し続けた自分は、
とうとう事務所に顔を出さなくなりました。

完全に行かなくなったのです。

仕事がない上に顔を出すのをやめれば、
事務所に行く理由が存在しなくなります。
一ヶ月に一度も行かない状態でした。

マネージャーや先輩からは、
「週に一回くらいは用事がなくても顔出しとけ」
と言われていました。
飲み会に誘ってくれたり、
メールや電話を下さったりと心配してくれる方々がいたのです。

このままではマズイ、と教えて下さっていたのです。

本当に有難いことです。

しかし怖くて怖くて行けなかった。
いや行かなかった。

そして事務所に行かなくなってだいぶ経ったある日

ふと「事務所に顔を出そうか…」と思う日がありました。
「もうずいぶん顔を出していない。」
「しかし劇団の稽古があるし…」
自分は行くのをやめました。

逃げたのです。
分岐点でした。

劇団の稽古の帰り
ふと携帯を見ると事務所からの着信履歴があり
留守電にメッセージがありました。

嫌な予感がしました。
というよりわかっていたのだと思います。

内容は 今月末でクビ でした。

劇団の座長に勤めて明るく話した事を覚えています。
そしてホッとしたのを覚えています。
もう苦しい思いをしなくて済むと。

こうして自分は事務所をクビになりました。

普通クビになると事務所で最後に挨拶したり、
書類を書いたりと何かしらあると思うのですが正直全く覚えていません。
事務所に行ったかな…?

覚えてない…

と思ったのですが文章書いてたら思い出しました。
行きましたね。

で最後に、
「留守電にクビとメッセージを入れた日に事務所に来てたら残すつもりだった」
と言われました。

まさに分岐点でした。

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