「プロになるまでの全て!」Yさん編12

代表から自分の一番痛い所を突かれ、
それを変え、今までの中途半端な自分に決着をつけるため。

クビになった事務所に御百度参りをする事にしました。

APHにある仕組みが正しいとは言え、
正直やりたくなかった。
でもやらなければ前に進めないと自分でも理解できました。

御百度参り初日。
予想はしていました。
しかし予想を遥かに超える恐怖が襲ってきました。

最寄駅に降りた時点で、事務所の方角に向かうのに抵抗がある。
足が重い。
見覚えのある風景が全て怖くて、誰か元事務所のスタッフに、先輩に、会ってしまうのではないか。
道を変え、遠回りをして裏道を通ろうか。
いやどうせ事務所に行けばスタッフや先輩はいる。
道を変えても結果は同じだ。
でも裏道を通って知っている人に合わないように事務所ビルまで行きました。

ビルの入り口まで来ると、全身から汗が吹き出し、胃の調子が悪くなってきました。
口の中から水分がなくなり乾いてくる。
奥に見えるエレベーターに乗らないと事務所のフロアには行けない。

入り口に入らず、通り過ぎました。
とりあえず外周を回って気持ちを落ち着けよう。
とにかくゆっくりと歩きました。
気持ちが落ち着くまでゆっくりと。
そんなに大きなビルではないので外周を回っても五分もかかりません。
あっという間に入り口に戻ってきました。

気持ちは全く落ち着きません。
しかし行かなければしょうがない。
心臓をバクバク言わせながらビル入り口奥のエレベーター前に向かいました。
そして震える指でエレベーターのボタンを押します。

エレベーターの階数表示が移動し始めます。
一階に来て欲しくない。
乗りたくない。
小さな雑居ビルなのですぐに来ました。
もう乗るしかない。

エレベーター内に入り、階数ボタンを押しました。
普段ならすぐに閉ボタンを押すのですが押せない。
でも勝手に閉まる。

エレベーターが移動し始めました。

事務所に入ったらどう動くのか?
どう挨拶をするのか?
事務所フロアに着くまでずっとシミュレーションをしました。
時間感覚がおかしくなっているのか、
やたらと長く感じました。
実際は一分もなかったと思います。

事務所フロアに着くと、目の前に事務所入り口がありました。

とても見慣れた入り口でしたが、
取っ手を握るのに随分と時間がかかる。
曇りガラスの向こうに人影が通るたびに、
入り口横にあるトイレに逃げ込む。

どれくらいそうやってウロウロしていたかわかりません。
しかしようやく入り口ドアを開ける事ができました。

「おはようございます」

挨拶をして一歩中に入りました。

「あれ?どうしたの?なんか台本あったっけ?」

お世話になったマネージャーが自分に気付き声をかけてくれました。
そこには悪い感情はなく、少しホッとしました。

「ちょっと顔を出しに来ました」

事務所在籍中にやるべき事をクビになってからやっている。
情けない限りです。

「そう、じゃその辺にいて良いよ」

そう言って、事務所に入ってすぐの休憩スペースを勧められました。
そこには灰皿や週刊誌、新聞などがやや乱雑に置かれていました。

ここで代表から頂いたアドバイス通り、
灰皿の吸い殻を捨てたり、雑誌・新聞を綺麗に整理したりしました。

「そんな事しなくてもいいよ」

事務所スタッフに言われますが、

「いや、暇なんで」

と言ってやりきりました。
思ったより普通に会話できている。
これならちゃんと話しができるかもしれない。
しかし、初日からいきなり本題に入る事はできませんでした。
30分ほどいて挨拶や少しの雑談をして帰りました。

こうやって慣れていってから社長と話をしよう。
今日の感じならなんとかなりそうだ。
自分はこんな風に考えていました。

しかしこれはとんでもない勘違いでした。
自分はまだまだ死ぬほど甘く考えていたのです。

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