今回はセリフが少ない。

声優という仕事上、喋らないと存在していないと同じです。

しかし何かできないか？
そんな事を考えました。

以前、ある先輩に
「誰かが大変なシーンを演じている時、出番のない人達はスタジオから出てしまうより中にいて気で応援してほしい」
と言われた事がありました。

「気で」というのがなんとも不思議な気がして印象に残りました。

その時は、あまりピンと来ませんでしたが実際「気」というのはあるような気がします。
「場の空気」というか「緊張感」というか。

極々稀にですが、現場にいると
「そこにいる人達全員の意識が一点に集中している瞬間」
を感じる事があります。

だいたい誰かが良い芝居をしている時です。

自分が演じている時も3回ぐらい経験があります。
自分ではなく他の人が演じている時ならばもう少し回数が増えます。

そういう時は、ピーンと張り詰めた緊張感の中でそこで演じている人に
全ての人の意識と力が集まってなんとも言えない不思議な空気になります。

他の人が演じている時は、自分がシーンに出ていなくて座っていても
シンクロしているのか気持ちの良い緊張感と充実感を感じます。

自分が演じていると、そういう時はだいたい色々ギリギリで必死になっている時ですが
突然すごく客観的に感じるのです。
「あ、今みんなが一点に集中してる」
と。

自分がセリフを喋っていても突然そう感じます。
そして芝居はそのまま続けているのです。
これを感じる自分と、演じている自分が別々になっているような感覚で
シーンの内容に関係なく、激しい感情もなく
とても澄み渡る、とでもいうような感覚でいっぱいになります。

自分が経験した3回とも、そのシーンが終わった後必ず誰かが
「今の良かった」
と言ってくれました。
自分も他の人の芝居で感じたら言ったりしてます。

これを意図的に起こせないか？
と思い、出番のない時にいろいろ試してみる事にしました。

結果としては、そうそう上手くはいきませんでした。

コッソリ邪魔にならないよう演じている人に感覚を合わせてみると
一人一人、感覚が、密度が、形がまるで違うのです。
そりゃそうですね、年齢、キャリア、個性、全てが違うんですから。

超ベテランの方にはこちらが引っ張られるようにトーンが上がり、
若い人だとなぜかとても気力を消耗したりしました。
とにかく噛み合わないことも。

セッションで、●●で相手に入る、というのをやっていますが
みんな全く違う●●をしているんだと改めて感じました。

生き残っている人は、この能力が高いのだと思います。
そして周りを巻き込んでいく。

自分が子供の頃に夢中で観ていたのは、
こうやって画面の前ですら巻き込まれたからなのではないかと思います。

それを自分も起こしたいです。