「プロになるまでの全て!」Tさん編05

 

 

 

 

居場所を失った私はバイトとレッスンに明け暮れた。
ダンスの先生やメンバーに対しての罪悪感が完全に消えたわけじゃない。
ずっと心に引っかかっている。

どうやったら、それを乗り越えて、完全に抹消できるのだろうか?
むしろ消さずに、生涯ずっと抱えていくべきなのか?
まったくわからないまま小劇場の舞台に参加し、役者として細々と活動していた。

舞台は好きだけど、その行為はプロと言えないことはわかっていた。
本当は子供番組がやりたいけど、
またどこかに通って事務所に所属しようという気が起 きなかった。
今は人とのつながりを大事にして、一個一個やるしかない。

そう思ってオーディション雑誌を片っ端から見て、
気になる舞台のオーディションを受けては落ち、受けては落ちを繰り返した。
だんだんモチベーションが下がった。
だからレッスンに行きまくった。
それしかないと思っていたから。

ある日、長年お世話になっている歌の先生がくすぶってる私を見て、
オーディションを紹介して下さった。
「知り合いが振付をしていて信頼できるから受けてみたら?」
先生が見せてくれたそのチラシには
「子供ミュージカル出演者募集」と書いてある。
子供達と劇団員が楽しそうに交流している写真が掲載されていた。

題名 は「スクラップ」
ゴミ捨て場にあるものを楽器に変えて歌を歌ったり、
ゲタでタップをするというミュージカルだ。

あっ、これ受けよう!
久しぶりにピンときた。
子供達と何かをしたかった。

書類を送ると一次審査通過の合格通知が届いた。
早速歌の先生に報告をして、二次審査を受けに行った。

審査内容は歌、ダンス、リズム感。
会場は、天井が高く、声も響く。
歌は、自分が好きな曲を選んで持っていくのだが、
女子全員が「パート・オブ・ユアワールド」というディズニーの曲を用意してきたので笑える。

とても緊張したけれど、歌もダンスものびのびできた。
久しぶりに良い感覚だった。
無事に審査が終わり 、帰ろうとした時に、
審査員の1人から「一緒に仕事したいです」と言われた。
「ありがとうございます!」とお礼を言うのと同時に、舞い上がった。

確信を突く一言だった。
間違いない。
受かった。
オーディションに受かった!
まだ結果が出てないのに、嬉しくてたまらない帰り道だった。

次の日、バイト中に携帯をポケットに入れて、
今か今かと合格の連絡を待ち構えていた。
合格者には今日中に電話が来る事になっている。
ソワソワして、バイトどころではない。
いらっしゃいませ〜♪♪♪
多分、私の意識はどっかに飛んでいた・・(笑)

もうそろそろ勤務が終わるのに
いつまでたっても電話がかかって来なかった。
いつでも電話対応 できるように、トイレに行く準備もできていた。
それなのに、電話はかかってこない。

「一緒に仕事したい」って言われたのに。
なんでだろう・・。

結局、電話はなかった。
確信を持った分だけ、がっかり度が半端ない。
落ちた。
信じられなかった。

 

 

数日後、知らない番号から電話がかかってきた。
確か、留守電メッセージが残っていて折り返した記憶がある。

「この前受けてもらった「スクラップ」とは別の作品に出て頂きたいので、
明日うちの事務所に来れますか?」という内容だった。
断る理由もないので、よくわからないまま「はい!」と即答した。

しかし・・一体、何が起きたのか全くわからない 。
私が受けた団体とは別の所から連絡を受けたのだ。

疑問を持ちつつも歌の先生に報告した。
すると、先生はすでに知り合いの振付家から事情を聞いていたようで私にこう話してくれた。

審査をしていた1人が、私の歌に惚れ込んだらしい。
でもその人は、外部の人間で別の企画を練っていた。
それで私を別の企画に参加させたいと思った。
だから、わざと落としたらしい。
つまり、私は引き抜かれたのだ。

その翌日、電話で話した代表兼演出家と対面した。
今回に至った経緯を聞き、「別の企画」の中身を伝えられた。

「実はTさんには、これをやって頂きたいのです」
DVDが準備され、TVにある映像が流れた。
「Tさんに演じて 頂くのは魔女とお母さんの二役です。」
画面をじっとみた。

お姫様のようなとっても美しい方がその役を演じていた。
ん?おかしいぞ。
私がこの美しい方と同じ役?
間違いだろう。うん。きっと何かの間違いだ。

って思ったけど、話がどんどん進んでいく。
詳細を聞くと、この美しい方は元宝塚の娘役らしい。
なんと、この元宝塚のYさんのポジションに私が入り、
全国の小学校で公演をしてほしいと言ってきた。

私、これ騙されてるかもしれない。詐欺だ。なにかの詐欺だ。
なんだろ。新手のオシツケ詐欺か?
本気で疑った。

しかしよくよく話を聞くと、きちんとギャラは出る。
巡演なので宿泊施設はもちろん劇団側で用意される。
聞く分には条 件も良く、下積みする場所としても良さそうな気がしてきた。

引き抜きなんて、なかなかないことだし。
よし、これを機に前に進んでみようかな。
ここで修業だ!
私は二つ返事で引き受けた。

レッスンとバイトで安定していた日々から一転、
今後は、お金を払ってレッスンをする立場からお金を頂く立場へ変わるのだ。

私はこれまで仕事をするためには、レッスンをしなくてはいけないと決めつけていた。
今考えると・・錯覚だった。
本当に必要なのは、稽古。
考え方1つが私をプロから遠ざけるのだと、APHで学んだ。
でも、それはしばらく先の事。

はじめて手にする仕事の台本に目を通した。
今回参加するミュージカ ル「青い鳥21世紀バージョン」は、オリジナル作品。
モーリス・メーテルリンク作の童話劇「青い鳥」を
面白おかしく現代の小学生に当てはまるように書き換えてある。

「きれいなものを見た時は、きれいだね。
美味しいものを食べたなら美味しいね。
心が響きあう。それが共感。」
「今はいつでも今しかない」
子供向けの台本と言えど、大人にも響く台詞や歌詞が沢山あってワクワクする。

「まさに私が求めていたのは、これかも・・・・。」
自分の原点と繋がっていく感じがした。

 


 

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