わかりやすくて、大袈裟なお芝居が、得意だった。
というか、それしかわからなかったし、やりやすい。
そんな私が、APHでの稽古を始めてから、舞台以外のお芝居に興味を持つようになった。
これまでとは違う視点で、映画、ドラマ、そして、女優さんを気にするようになった。
もちろんミュージカルで、お芝居はしていた。
喜怒哀楽を明確にして、わかりやすいお芝居をして、
台詞は、ハキハキ喋った。
しかしAPHで学ぶことは、真逆だった。(あくまで私にとっては)
顔や身体で、表現しようとするな。
台詞は、世話に落として喋ってみろ。
こっちの方が面白そうだった。
でも簡単じゃない。
これまでは顔や身体を動かすしか手段がなかった。
喜怒哀楽を大きく表現して説明する事は、得意。
しかしこれらは、映像で通用しない。
芝居を舞台向けから映像向けに変化させる。
これが、新たな目標になった。
「中が動いた分だけ、外を動かせ。」
そのことが、新しかった。
まずは、内面だった。
なかなか上手くいかない。
何かをやりたくなってしまうし、
やらないと自分が物足りなくなってしまう。
APHでやる稽古の題材に、とある映画のシーンを持ってきて、セリフを真似をした。
まだ未練の残る元カレと電話をするシーン。
APHでは、月に1度、カメラで芝居を撮る。
自分の姿に直面するのは、毎回緊張する。
できれば見たくない(笑)
でも、その回の映像は、初めて自分を見てもいいと思えた。
代表から言われてわかったことだが、これまでとは違って、
葛藤が前に出ていたのだ。
その時に代表から、
「お前、映像の芝居に入ってきたな」と言われ、嬉しかったのを覚えている。
もう巡演はやらなくてもいいかなあ。
今の場所を変えたいなあ。
そう思うのは自然なことだった。
お芝居のレベルを上げたいという思いの方が強かった。
かれこれ、7年?やってきた巡業。
やり切ったと自負もある。
でも、せっかくの居場所を離れるのは勇気がいる。
ここを離れたら何もなくなってしまう。
その迷いが、私を鈍くさせた。
代表と話す機会を得て、
お前、どうするんだ?と聞かれた。
思い起こせば、声優になりたかった。
いや、厳密には声優アイドルだけども。
これまで舞台、ミュージカル、声優、やりたい事全部に触れた。
でも、それだけで食べていけるまでのテッペンに、たどり着けていない。
全部が中途半端だった。
実は・・・声優になりたかったんです。
代表に伝えた。
そうだったのか!?
はじめて知ったぞ!!
代表は目を丸くしていた。
あの日、試験で「預かり」から「所属」に上がれなかった事が恥ずかしくて、黙っていた。
しかもそれがきっかけで、自分は声優になることを挫折したんだと思い込み、諦めかけていた。
私の中で声優アイドルになりたかった事実は、無かったことにしてきた。
代表も周りのメンバーも驚いていた。
ずっと舞台をメインにやってきた私の口から、まさか、
「声優」というワードが出るとは!!
私の方はというと、改めて声優になりたいと言葉にして伝えた事によって、
自分に正直になれた。
心のどこかでずっと「いつかは声優に・・・」という想いがあったのだ。
けれども、その想いからずっと目を背けてきた。
過去の失敗を挫折としか、思えなかったから。
でも本当は、声優になりたかった。
ここからだ。
実はこの時、舞台でお世話になっている演出家から、
劇団を廃業にすることも知らされた。
良いタイミングだった。
事務所に入ろう。
そう思った。
30代からのスタートだった。