「プロになるまでの全て!」Tさん編15

 

 


 

 

わかりやすくて、大袈裟なお芝居が、得意だった。
というか、それしかわからなかったし、やりやすい。
そんな私が、APHでの稽古を始めてから、舞台以外のお芝居に興味を持つようになった。
これまでとは違う視点で、映画、ドラマ、そして、女優さんを気にするようになった。

もちろんミュージカルで、お芝居はしていた。
喜怒哀楽を明確にして、わかりやすいお芝居をして、
台詞は、ハキハキ喋った。

しかしAPHで学ぶことは、真逆だった。(あくまで私にとっては)
顔や身体で、表現しようとするな。
台詞は、世話に落として喋ってみろ。

こっちの方が面白そうだった。
でも簡単じゃない。
これまでは顔や身体を動かすしか手段がなかった。
喜怒哀楽を大きく表現して説明する事は、得意。
しかしこれらは、映像で通用しない。

芝居を舞台向けから映像向けに変化させる。
これが、新たな目標になった。

「中が動いた分だけ、外を動かせ。」

そのことが、新しかった。
まずは、内面だった。
なかなか上手くいかない。
何かをやりたくなってしまうし、
やらないと自分が物足りなくなってしまう。

APHでやる稽古の題材に、とある映画のシーンを持ってきて、セリフを真似をした。
まだ未練の残る元カレと電話をするシーン。
APHでは、月に1度、カメラで芝居を撮る。
自分の姿に直面するのは、毎回緊張する。
できれば見たくない(笑)

でも、その回の映像は、初めて自分を見てもいいと思えた。
代表から言われてわかったことだが、これまでとは違って、
葛藤が前に出ていたのだ。

その時に代表から、
「お前、映像の芝居に入ってきたな」と言われ、嬉しかったのを覚えている。

 

 

もう巡演はやらなくてもいいかなあ。
今の場所を変えたいなあ。
そう思うのは自然なことだった。
お芝居のレベルを上げたいという思いの方が強かった。

かれこれ、7年?やってきた巡業。
やり切ったと自負もある。

でも、せっかくの居場所を離れるのは勇気がいる。
ここを離れたら何もなくなってしまう。
その迷いが、私を鈍くさせた。

代表と話す機会を得て、
お前、どうするんだ?と聞かれた。

思い起こせば、声優になりたかった。
いや、厳密には声優アイドルだけども。

これまで舞台、ミュージカル、声優、やりたい事全部に触れた。
でも、それだけで食べていけるまでのテッペンに、たどり着けていない。
全部が中途半端だった。

実は・・・声優になりたかったんです。
代表に伝えた。

そうだったのか!?
はじめて知ったぞ!!

代表は目を丸くしていた。

あの日、試験で「預かり」から「所属」に上がれなかった事が恥ずかしくて、黙っていた。
しかもそれがきっかけで、自分は声優になることを挫折したんだと思い込み、諦めかけていた。
私の中で声優アイドルになりたかった事実は、無かったことにしてきた。

代表も周りのメンバーも驚いていた。
ずっと舞台をメインにやってきた私の口から、まさか、
「声優」というワードが出るとは!!

私の方はというと、改めて声優になりたいと言葉にして伝えた事によって、
自分に正直になれた。
心のどこかでずっと「いつかは声優に・・・」という想いがあったのだ。

けれども、その想いからずっと目を背けてきた。
過去の失敗を挫折としか、思えなかったから。
でも本当は、声優になりたかった。
ここからだ。

実はこの時、舞台でお世話になっている演出家から、
劇団を廃業にすることも知らされた。
良いタイミングだった。

事務所に入ろう。
そう思った。

30代からのスタートだった。

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