「プロになるまでの全て!」Yさん編27

そのディレクター、Tさんは、
S先輩の事をとても評価しているそうでずっと呼んでくださっているそうです。
そんな恩のあるディレクターさんなので、
S先輩もかなり気にしているらしく
「現場に入ったら挨拶と同時に謝ってくる」
「実はメールや電話でも何度も話して謝っている」
と言っていました。

…これは、役者がやる事なのか???
社長は何してるんだ⁉︎
自分の疑問を聞いてS先輩は言いました。

「…Tディレクターがウチの社長に連絡しても、ちゃんと謝罪しないしいろいろ理由つけて現場にも顔出さないんだよ」

マジですか…。
確かに事務所のスタッフは社長一人だけなので忙しいとは思いますが…。

とにかく自分にできる事は、
頂いた台本をしっかり読んでリハーサル映像をよく見て、
自分の芝居を必死に用意していく事だけでした。

今回の作品は中世ヨーロッパが舞台で、
自分の役は囚人であったり酒場のゴロつきでした。
作品の世界観やその時代の雰囲気にあった芝居をしなければ。
とにかく当日までひたすら家で稽古です。

S先輩も相当気にしていたしさすがにマズいと思ったのか、
当日はB社長も一緒に現場に入ってディレクターに謝る事になりました。

そして当日。
地下鉄のホームで緊張しながら電車を待っていると電話がかかってきました。
B社長からです。

「ごめん‼︎今日ちょっと別件で行けなくなった‼︎よろしく言っといて‼︎」

「え?…はい、でも…」

自分が何と言って良いか言葉が思いつかずアタフタしていると
「じゃ‼︎」
と勢いよく電話が切れました。

どういうこと⁉︎

まさか当日ドタキャンされるとは思わなかった…。

どうやってディレクターに挨拶しようかばかり考えていて電車からスタジオまでの道のりはよく憶えていません。
現場に着くとすぐに音響ブースに挨拶に向かいます。

心臓がドクドクと強く動いているのが感じられました。

扉を開けると目の前のミキサー卓の前にディレクターらしき人が座っていました。
この人か⁉︎

「おはようございます‼︎〜のYです‼︎よろしくお願いします‼︎」

と勢いよく緊張して強張った挨拶をしました。

その人は自分の所属事務所を聞くとあからさまに嫌そうな顔をして
「…おぅ」
となんとも言えない声を漏らしました。

怖っ⁉︎

自分は何というか魂が抜けそうな気分になりました。
そのままスタジオに入るとS先輩がすでにいて、
目が合った瞬間なにかいろいろな気持ちが通じ合った気がしました。

「おはようございます。Sさん、あの今日社長が…」
「あぁ、こっちにも連絡あったよ。しょうがないね。頑張ろう。」

その後、S先輩と自分は開始の時間までずっと緊張した顔で座っていました。

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