「プロになるまでの全て!」Yさん編26

S先輩がレギュラーでお世話になっているディレクターTさんの現場。
尊敬する先輩の行っている現場だし緊張はしましたが、
先輩と共演もできるし新しいラインの仕事に大喜びしていた自分に
「ちょっと先に入ったウチの新人がやらかしてるから頼むよ」
とB社長が言ってきました。


どういう事ですか?
詳しく聞いてみると、
ウチの新人が二人そのディレクターの現場に入れてもらっていたらしいのですが、
かなり酷い出来だったらしくディレクターさんが激怒してしまい、
二人の新人のうち一人は番組レギュラーだったのに降板させられたと言うのです。

そんな状況の後に自分が入るので、
ここで失敗すると
S先輩のバーターという枠自体がなくなる可能性がある
という事でした。

???
なにしてくれてんだよ⁉︎
初めてのディレクターさんだし自分も確実にやれるという確信があるわけでもないし、
ちょっとプレッシャーが大きすぎないか⁉︎

ちょうど新人が大失敗した現場にS先輩も一緒にいたそうで、
心配して自分にいろいろと状況やディレクターさんの事を話してくれました。

現場ではディレクターさんの怒号が鳴り響いていたそうです。
「ウチの新人は何をしたんですか?」
ディレクターさんが気にするポイントを知るためにも自分はS先輩に聞きました。

「尺がどうしても合わなかったんだよ」

…?
尺というのは吹き替えで日本語に置き換える時に合わせる、
元の外国語を喋っている音声の長さの事です。
その長さに合わせてセリフが翻訳されて、
自分達役者もその音声の長さに合わせて喋ります。

そこ!?
まさか芝居の事ではなく尺合わせで怒号が出るほどの事になるとは…。

どうも原因はそれだけではなく、
その現場に入った新人二人ともそもそも芝居が良くなかった事から始まり、
いろいろ積み重なった結果怒号が飛び出したみたいです。
という事はけっこうな数の現場に呼んでもらえていたという事で、
自分としてはとても、とても羨ましい事でした。

S先輩は新人二人を心配して現場の日の前に、
二人を事務所に呼び出して一緒にリハーサルをやってくれたそうです。
先輩の方から声をかけてそこまで面倒を見る姿勢には本当に頭が下がります。

S先輩は午前中から集まってもらって2、3時間やって昼飯でも食べさせて終わろうと思っていたそうです。
しかしあまりにも酷かったので結局夜まで10時間くらいやる事になってしまい、
上手くできない事に新人自身は落ち込んでしまいました。
S先輩は元気付けようと昼も夜もご飯を食べさせ励まして返したそうです。

これはヤバい。

最初から印象が最悪の状態からのスタートです。
自分が及第点の芝居をしてもマイナスをゼロにできるのか⁉︎
さすがに尺合わせで失敗するとは思いませんでしたが、
素晴らしい芝居でマイナスをプラスにする‼︎という自信は全くありませんでした。

S先輩からは
「君ならいつも通りやれば大丈夫だから」
とは言われましたが、
とてもいつも通りの気持ちでは現場に行く事はできません。
当日はS先輩も一緒に入っているのが唯一の救いでした。

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