「プロになるまでの全て!」Tさん編27

大きなチャンスが巡ってきた。
事務所で「音響監督主催のワークショップオーディション」が開催決定。
出来が良ければTVCMナレーターにキャスティングされるのだ。
今回のオーディションがいつもと違うのは、
審査をする音響監督が老舗の大手声優事務所のマネージャーであるということ。
小さな事務所でもこんなご縁があるんだな。
・・・きっと裏では色々あるんだろう。
でも私にとってそんな事は関係ない。
メジャーと繋がれるチャンスなんて、なかなかないんだから。
しかも事務所に入ってすぐにチャンスをいただけるとは、なんて幸運なんだろう。
絶対に何かある!
やっと上に上がれる!
気持ちは上昇するばかりだ。

このワークショップオーディションには外部のタレントさんも含め約50名が参加した。
一人ずつ自分で用意した30秒程度の原稿を読み上げる。
私は個人レッスンでちょうど勉強していた〇〇を持ち込むことにした。
作り込まない。自分の音で勝負すると決めていた。
私の番。
用意した原稿を読み上げる。
監督がチラチラ私の方を見ている。
読み終えた後、はい、ありがとうございましたと一言。
50人が原稿を読むのにそこまで時間はかからない。
始まって40分後。
「今日は朝早くから集まっていただきありがとうございました。」と言って監督が帰り支度を始めた。
全員心の中で叫んだと思う。
え?もう帰るんかーい!?
ワークショップは原稿を声に出して読むだけだった。
まあ監督はお忙しい中、全員の声を聴きにいらしたわけだから、
それだけでも有り難いということで・・。

さて、しばらくして、事務所から連絡が来た。
おかげさまで合格だったらしい。
らしいというのは、別に仕事が決まったわけではないからだ。

ここから約3ヶ月間、週に一度、音響監督のレッスンを受け、最終日にはスタジオでボイスサンプルを作成する。
とにかく、監督の求めているところにハマらないといけない。
毎回要求されるのは真っ直ぐのラインだった。
削ぎ落とす感じ。
VPのお仕事とは真反対で苦戦した。
1人約20分のレッスン、気に入られた人は30分以上見てもらえていて、やっぱり実力の世界だなと痛感した。

ここから個人レッスンでの特訓が始まった。
原稿を持ち込み、一つ一つ振り返りながら代表に見てもらう。
厳しい言葉を有り難くいただきながら、課題をクリアしていく。
まだまだ私は実力不足。
世話落ちで喋ることができないし、語尾の処理も、語頭の入りも汚い。
気持ちと感覚に頼っていることが明々白々。
同時並行で通っている吹き替えのワークショップも、なかなか苦戦していた。
現場で大活躍中の吹替ディレクターワークショップの抽選に当たり、一度参加したのだが、
周りの方が上手すぎて圧倒される始末。
当たり前だがそのディレクターの目に留まることもなかった。
実力がないと、こんな風に辛い想いをする。

話を戻して、ついにボイスサンプル収録日がやって来た。
監督が選んだ4本の原稿を、ディレクションを受けながら収録する。
うん。
綺麗なスタジオに緊張してしまった。
喋りながらどんどん軸がズレて、ミキサーさんからマイクとの距離を注意されてしまった。
終わった・・・
お世辞でも決して良かったとは言えない。
そんな出来栄えだった。
私はただのレッスン生として終わってしまった。。
実力も自信も、全部なかった。

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