「現場で大失敗」から得られたこと。

数年前に某人気アニメの現場で大失敗をした話をしたいと思います。

いわゆる“かませ犬”のような、一話だけ登場して主人公にボコボコにされる悪役を演じる機会を頂きました。

そういった役どころが大好きだった私は、それはもう嬉しくて、頂いた台詞を何度も読み返し、映像をチェックし、台詞の言い回しをあれこれと試し、自分の中でグッとくるニュアンスを見つけ、それを忘れないように反復練習して、何度も何度も確認して、

そして、現場で大失敗を犯しました。

徹底的に詰めていったつもりでいましたが、実際はその逆。
石のように凝り固まった演技プランに対して現場で音響監督さんからダメ出しを受け、更にはガチガチに固めてしまったが故に、そこから一切表現を変えることが出来なくなってしまったのです。

その時の、ブースの中の気まづく静まり返った空間は未だに忘れることができません。

APHでは“関係性の熱”という言葉をよく耳にします。

これはもちろん、自分と他の役者同士のコミュニケーションの中で生まれる楽しい雰囲気であったり、鋭い緊張感であったりのことだと“頭では”分かっていました。

ですが、実際に当時の私が現場に持ち込んだものは“石のように頭でっかち”で“自分勝手な”自己主張だったのです。

今考えてもゾッとしますが、どう振り返って考えてもあの場所で一番ダメだったのは私に他なりません。

自分の演技や表現は「相手の為にある」ということは、自分だけで練習を繰り返すと本当に見失ってしまう部分だと感じます。

APHでは自己満足の演技をすると、本当に「寒い空気」が流れます(笑)

そして、本当に関係性の熱が生まれると、本当に心からの拍手をもらえ、それはそのまま、現場での監督さんや声優さんからの評価とイコールになることを私は何度も経験しました。

「仕事現場が無い時の仕事現場がAPHである」

練習やエクササイズとは違う、実際に実践する機会があることは本当に有難いと思います。