実家に戻る道中の事はとにかく緊張していたのを覚えています。
父に真剣に頼み事をする事自体初めてでしたし、
断られたらどうしようかという不安もありました。
実家に着くと、いつもの通り母が迎えてくれました。
父は厳しい顔をしていました。
どう切り出したらいいのか?
悩みました。
スムーズに話を持っていく話術は自分にはありません。
APHに来るまでは反発していただけです。
考えても何も良い方法は出てきません。
正面から、正直に、
誠心誠意頼むしかない。
自分は父の前で人生初の土下座をしながら言いました。
「養成所に行くためのお金を貸して下さい」
父は驚いた後、
「もう諦めて帰って来い」
と言いました。
「まだ自分はやり切ってない」
「今のままでは終われない」
「最後のチャンスを下さい」
自分はそんな事を言ったと思います。
自分の言った事はうろ覚えですが、
その時に見た父の顔は今でもよく覚えています。
厳しい表情ではありますが怒っているのではなく、
困ったような顔をしていました。
その表情は忘れられません。
しばらく黙った後、父は
「どうせダメだろうし、これで無理なら諦めもつくだろう」
と言ってお金を出すと言ってくれました。
母は「良かったね」と言ってくれました。
この時、代表が言っていた事を実感しました。
父は本当に自分の事を心配してくれていると、
初めて自分で感じる事ができたのです。
お金を貸してくれるまで頼み込むつもりではいました。
しかし父が徹底して拒否して借りられないかもしれない。
そうなったらどうしよう。
どうやって養成所に行けばいいのか。
ずっと自分の事ばかり考えていた自分は、
代表に説明され、実際に父の想いを感じた事で、
少しだけ自分以外の人の事を考えるようになりました。
自分のやりたい事を諦められない。
でも両親を心配させたくない。
それを両立するには声優として食べていけるようになるしかない。
先ずは何としても養成所に入らなくては。
そう強く思いました。
こうして養成所の資金を用意する事ができ、
入所試験を受けた結果、
自分でネットで探してきた養成所に合格しました。
自分のバカな行動で失敗し所属事務所をクビになり、
諦めきれずまた当てもなくさまよってTさんのおかげでAPHに辿り着き、
代表、メンバーの励ましやアドバイス、
そして両親の力も借りてようやく、
やり直すための一歩を踏み出す事ができたのです。
さて、わかってはいましたが養成所に入ってみると若い子達ばかりでした。
自分と10歳も違う。
ほとんどが18から20代前半。
若い!!
養成所の授業で強烈な場違い感を味わいました。
しかしこんな事は初めからわかり切っていたのです。
怯んでなどいられません。
自分は授業で誰より積極的にアピールして行きました。
代表からの指示は
「圧倒的、ダントツのトップでいる事」
それを実践するためAPHで教わった事を全て注ぎ込みました。
APHで教わった事は面白いくらい効果を発揮しました。
自分のクラスを担当してくれたのは現役の声優二人でした。
そのどちらもがAPHで教わった事を実践すると
「面白い!!良いね!!」
と言ってくれるのです。
自分は代表の指示通り、
圧倒的、ダントツのトップになりました。
全くの未経験か、小劇団にいたくらいの人達です。
APHで教わった自分には負けると思う相手はいませんでした。